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9人の翻訳家 囚われたベストセラー(2020年)

『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』(2020年)

原題:Les traducteurs

 

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IMDbより

フランス映画から。

世界的ベストセラーとなった「デダリュス」の完結編「死にたくなかった男」の世界同時発売のために、9人の翻訳家がフランスに収集された。原稿の流出を防止するという名目で、出版社は翻訳家たちを豪邸の地下室に完全隔離する。携帯電話もインターネットにも触れることのできない生活が始まる。
しかし、 出版社の社長の元へ

”原稿を流出させる。止めたければお金を用意しろ”

という脅迫メールが届く。外部に漏れるはずのない原稿は、なぜ流出の危機にさらされたのか?犯人は誰か?犯人の意図は何なのか?

すべてを知った後にもう一度始めから観たくなる、珠玉のサスペンス映画!

 

 

 この映画、実話をもとに作られているそうです。その作品とは、世界的に有名な「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズ。その4作目「インフェルノ」の翻訳にあたって、翻訳家たちは本当に隔離されたそうです。

 

【※以下、ネタバレあり※】
【※未鑑賞の方は読まないことをオススメします!※】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品では原稿の流出方法がまず語られますが、それは真実ではありませんでした。電車と(日本製の!)コピー機と車とスケボーとネズミを使った綿密なすり替え作戦、それ自体かなり驚きでしたが、これもアレックスの茶番だったことは衝撃でした。

原稿はアレックスが書いた、つまりオスカル・ブラックとはアレックスのことだったのです。だから以前社長さんと会ったとき、3巻目の発売前にも関わらず3巻目の冒頭文を言い当てることができたのは、当然というわけです。

時系列を簡単に整理してみます。

《少年アレックス》
毎年夏にフランスへ休暇に来るアレックスは、フォンテーヌの元で書店バイトをすることになる。
→アレックスには文才があることに、フォンテーヌは気づく。
《大人になったアレックス》
フォンテーヌは、(アレックスが書いた)「デダリュス」を引き出しに入れておくには勿体ないとアレックスに助言し、良い出版社を知っていると言う。アレックスは出版を拒むが、フォンテーヌ名義かつオスカル・ブラックというペンネームで出版するなら良いと言う。

ドイツで行われたブックフェスで、社長さんが「デダリュス」の出版権を獲得したことを高らかに宣言する。(その場にアレックスがいる、自分の作品の扱われ方に絶望や悲しみを感じ涙する)

アレックスはインターネット上に「デダリュス」の英語版を無許可で掲載し、「ファンからは僕の翻訳の方が評判がいい」と社長さんに言いつける。(まあアレックスが書いたものだから、当然っちゃ当然)

アレックスは3巻目の翻訳作業の前に、翻訳家4人に接触し原稿の流出作戦に参加させる。原稿のコピー作戦を実行。(本当はアレックスも原稿を持っており、実際にはかばんをすり替えていない)

隔離翻訳作業が始まる。(全員が初対面であるフリをする)

社長さんの元に脅迫メールが届く。(アレックスが自動送信するように設定していた)社長さんは犯人を突き止めようと、翻訳作業を中止し翻訳家たち全員の部屋を捜索する。

翻訳作業を始めていないページの原稿が流出の危機にさらされ、社長さんは混乱。社長さんは秘書・アシスタントのローズマリーに、翻訳家たちの身の上調査を行うよう指示する。

さらなる脅迫メール(全文掲載)が届く。社長さんは逆上し、アレックスたちに銃を突きつける。この場を脱するためには、警備員たち・社長さんを突破しなければならない。翻訳家たちは共通語フランス語だけではなく、多言語を操って社長さんに分からないように指示を出し合うが(めっちゃかっこいいシーンだった!)、カテリーナが撃たれ失敗。ローズマリーがアレックスの隠れ家を見つけ、社長さんに連絡。自動送信するパソコンを破壊せよという命令をローズマリーは無視する。アレックスが必死の抗議をするも、社長は発砲。

アレックスは(警察で?)社長さんにすべてを話し、自分が「デダリュス」を執筆し、オスカル・ブラックであることをここで初めて告白する。社長さんはフォンテーヌがオスカル・ブラックだと思っていたため、大きな衝撃を受ける。また、アレックスは脅迫メールで要求したお金を社長さんの口座へ転送したことで、社長さんが自作自演したように見せかけた、と言い放つ。信じられない社長さんはアレックスに襲い掛かり、フォンテーヌを殺害し書店を放火したこともしゃべってしまう。警察官が突入し、アレックスはその場を立ち去り、終了。

 翻訳家は9人いましたが実際には何も知らない人もいて、その人の描写が置いてけぼりでしたが…まあ、そこは気にしないでおきます。

 

アレックスは言いたかったこと、それは

文学ビジネスは文学への冒涜だ

と解釈できると思います。


出版権を獲得したと高らかに宣言した社長さんは、翻訳家たちを隔離し、銃装備した警備までつけて世界同時発売にこだわります。著者オスカル・ブラックを金儲けの道具としてしか見ていない社長さんに、復讐することがアレックスの目的だったというわけです。また、社長さんはデンマーク語の翻訳家のエレーヌの部屋にあった未発表作品を”ゴミ”のように扱い、燃やしてしまいました。終盤、翻訳家たちに銃を向けた時も「売り上げの少ない国から始末する」と言って、ギリシャ語翻訳のおじさんを真っ先に標的としました。社長さんは根っから金儲けしか考えていなかったのです。

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文学の尊さやその価値とは何なのかということを大いに考えさせられる内容でした。

また、インターネットなどで瞬時に多数の人へ拡散できる時代に、本を読むことで文学作品を楽しむことは、作者やその翻訳者への敬意と考えることができると思います。

 

トリックが実に巧妙だったので、やはりもう一回見たい。そして、ヨーロッパの多言語が登場するので、そこが分かればもっと面白かっただろうなあ…言葉のプロってすごいです。
ダ・ヴィンチ・コードシリーズも、こういう事実を踏まえて読むとまた違った印象になりそうですね。